臨床試験において多様な人種データを揃えるための3つのアクションプラン
<目次>
■臨床研究における対象患者の割合
■臨床試験において多様な人種データを揃えるための3つのアクションプラン
1.患者との信頼を育む
2.患者の認識を高める
3.患者がアクセスしやすくする
■さいごに
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)はマイノリティや有色人種の人々に健康面で不均衡な形で影響をもたらし、これにより世界規模での健康転帰*の格差が浮き彫りになりました。 ※転帰…疾病の予防や治療の結果として生じる健康状態と、その見通しのこと。治療の効果を分析する際に重要な指標となる。
臨床研究における対象患者の割合
個々の患者の転帰と医療の利用状況は様々な要因によって変わりますが、臨床研究の対象者に占めるマイノリティや有色人種の割合は明らかにいびつです。例えば、最近の米食品医薬品局(FDA)の調査では、臨床試験参加者の80%が白色人種であることが判明しています。さらに、承認薬のうち黒人患者に対する有効性に関してデータによる裏付けがあるものは、全体の20%未満に過ぎません。
つまり、臨床研究には多様性の格差が明確に存在し、それが「患者の信頼」、「患者の認識」、「患者の医療」へのアクセスという3つの主な障壁により、さらに悪化しているのです。臨床試験におけるダイバーシティを促し、最終的に健康の平等の実現を促すには、このような障壁をなくすことが不可欠です。
臨床試験において多様な人種データを揃えるための3つのアクションプラン
臨床試験の被験者募集において効果的なダイバーシティ戦略を推進するには、次の3つの障壁について理解し、障壁を取り除くアクションプランを策定することが極めて重要になります。
1.患者との信頼を育む
患者とのつながりの構築は、信頼を育むことから始まります。生体実験、過度に多い医療過誤、差別など、医療現場で不当な扱いを受け続けてきたマイノリティの人々は、当然のことながら医療機関に不信感を抱き、その利用をためらいます。
患者の信頼を育むための最初のステップは、このような歴史的な過ちを認め、臨床医の異文化コンピテンシー(多様な価値観や文化的背景を持つ患者のニーズの違いを考慮して能動的に関与していく力)と気づきの力の向上に努めることです。医療機関は、患者の健康格差と不信を生んできた歴史的状況や構造的状況を考慮しながら医療従事者を教育し、こうした状況に関心を持ってもらうために個々の状況に合わせたトレーニングプログラムの開発を検討する必要があります。また、このようなプログラムでは、患者の医療制度に対する認識と臨床試験への参加についての理解に影響を与えうる、健康の社会的決定要因と文化的要因についても説明されているべきです。
例えば、臨床試験に参加する際に、副作用や自身の安全について考え躊躇する人は多いものです。このため、被験者募集戦略で打ち出すメッセージではこのような懸念にきちんと言及し、不安を和らげるために十分な情報を提供する必要があります。
さらに、このような懸念を基本的なレベルで理解してもらえるように、信頼できるコミュニティ代表者や擁護団体の助言を求めることも有益かもしれません。信頼できるリーダーや影響力のある人たちと連携することで、権利を奪われている人々が発言権を取り戻し、コミュニティ内で効果的な対話を促すことができます。その結果、信頼が醸成され、潜在的な参加者が臨床試験関連の情報を積極的に入手できるチャネルを広げることができるのです。
2.患者の認識を高める
多くの臨床試験は、進行中の試験とその参加方法について患者がうまく認識できていないことで、被験者数の目標達成に苦労しています。この原因は、一般的に健康に関するリテラシーの低さや欠如であることが多く、医薬品の開発プロセスが十分に理解されていないことも影響しています。米国だけで見ても成人の10人中9人に健康に関するリテラシーに問題があり、医療について理解することが難しい状況にあります。その内容が一般の人がわかるように説明されていない場合には、なおさらです。
さらに、患者集団の中でも英語が堪能ではない(Limited English Proficient:LEP)人々は、言葉の壁と利用可能なリソース不足によって募集の対象から除外されがちです。よくある理由は、臨床医が追加で必要になるリソースへの投資を心配していたり、誤解や誤訳によってインフォームドコンセントが曖昧になる可能性を懸念したりしていることです。しかし、多言語のコミュニティに働きかける際に募集メッセージの翻訳や文化的な背景を考慮することを怠ると、臨床研究においてLEP患者の参加の割合がさらに低下します。そして長期的に見ると、特にLEPの集団で広がっている健康格差と健康転帰の不良を、終わりのないものにしてしまいます。
募集メッセージの質を向上させて幅広い言語で伝えていくことは、様々な言語を母国語とする患者に研究について知ってもらう上で不可欠です。実際に2013年の研究では、募集段階でスペイン語の電話通訳を配置したことで、ヒスパニック系の人々のエンゲージメントが10%向上したことが示されています。
3.患者がアクセスしやすくする
文化的および言語的に多様な参加者の多くは、国や地域レベルで進行中の臨床試験の数が限られていることで、臨床試験に関与しづらい状況にあります。
こうした状況には、仕事を休めない、臨床試験の施設から遠い場所に住んでいる、施設への移動に使える交通費に制限があるなどの複数の要因が絡んでいます。このような社会経済学的な要因はマイノリティの人々に大きな影響があるので、アクセスを改善する戦略において考慮しておく必要があります。
試験参加者にとってのアクセスの障壁についてよく理解し、克服するためのアプローチは数多くあります。例えば、患者のデモグラフィック(属性)を評価する試験実施施設向けのフィージビリティ(実行可能性)調査の実施や、様々な言語に対応できるスタッフの確保などです。
臨床レベルでは、研究機関は医療施設と緊密に連携し、臨床試験の被験者募集を患者の治療経路に組み込む必要があります。患者の病歴や社会経済的なバックグラウンドを十分に理解している医療従事者は、患者と臨床試験の被験者募集をつなぐ架け橋になれるのです。
結局のところ、多様な集団に対応する確固たる被験者募集戦略を作成する責任は製薬会社にあります。新型コロナウイルスのパンデミックの渦中にある現在、臨床試験に対する患者の認識を改善し、きちんと情報を届けるアウトリーチ戦略の有効性を評価できる十分な機会が与えられているのです。被験者募集の取り組みを最適化するには、臨床試験への参加に対する上記の3つの主な障壁を考慮することが欠かせません。
さいごに
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